質素でゆとりのある家と、日々の風情を感じながら暮らす。____komorebiさんのご自宅を探索(前編)
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広間に立つ一本の柱。そこに組み合わさるのは年季の入った梁。古道具と無垢でできた家具が、それぞれ存在感はあるものの、どれも主張し過ぎず馴染む佇まいに惹かれ、少し覗いてみることに。
手仕事でつくられた家具や雑貨に日の光が零れる様子と、木漏れ日を映し出す暗く静寂のある場所。どこを切り取っても絵になるkomorebiさんのご自宅。
古い日本家屋をフルリノベーションし、新しいモノと古いモノ、それぞれの良さを引き出しつつ調和した家と、komorebiさんが考える四季折々の風情を感じながらの暮らし。
前編、後編、2回にわけてご紹介していきます。
時を刻みながら家族とともに成長する家
komorebiさん
我が家は築60年以上の家屋を屋根と柱を残してフルリノベーションしています。元々は義祖父母が暮らしていたところに、妻と結婚を機に住み始めました。
私も妻も昔から時の経過により味わい深くなった古い建物が好きでしたので、祖父母の残してくれたこの家に愛着を感じながら暮らしていました。
しかし家族が増え手狭になると、間仕切りの多い昔のつくりは使い勝手が悪く感じるようになり、また断熱材が入っていない家は、冬には隙間風が入り暖房の効きも悪く寒い思いをしながら過ごしていました。当時は、家の中で防寒着を着込み、晴れた日には、日の当たる外の方がよっぽど暖かい、そんな冗談とも言い切れない暮らしぶり。さすがに将来を考えると不安になり、この頃から家の改修を検討し始めました。
ただ祖父母の遺してくれた愛着ある家をまったく新しい家に建て替えてしまうのは忍びなく、余白を持て余すような大きな家に住むことには興味がありませんでした。
自分たちの身の丈にあった、必要最低限の簡素な家で、四季折々の風情を日々感じながら慎ましく暮らしたい。完成した時に完全な状態でそこから劣化していくのではなく、時が経過して味わい深く馴染んでいき、家族の成長と一緒に家も育っていく、そんな家で暮らしたいと思っていました。
我が家にフィットした建築家さんとの出会い
家づくりについて調べていく中で、万人に不自由のない平均化された家よりも、自分たちが望む暮らし方に合った家を一緒に考えてくださる建築家に依頼するのが、我が家の家づくりにはフィットしていると考えうようになりました。
そこで書籍や雑誌、WEBサイトなどで建築家の方を探していると、ひとりの建築家さんに出会いました。
多くの施工事例は広角レンズで撮られた写真と、部屋全体が明るくモダンで格好いい家が印象的でしたが、その方の施工例は主張が強くなく、光の入り方が印象的で明と暗のコントラストも落ち着いていました。素朴でさりげないながらも、素材の使い方や設備、部品の細部まで気をてらっていなくて好感をもちました。
実際にお会いすると歳も近く、暮らし方や家の方向性について価値観を共有できると感じて依頼することに。
当初は間取りをどうするか、どんな家具を置きたいか、設備は何を取り入れるのか、といった細かいところばかりに思考がよりがちでしたが、素人である私たちの知識よりも、経験豊富なプロの方は当然アイディアも引き出しも豊富。ディテールは価値観の合う建築家さんにゆだね、自分たちはどんな暮らしがしたいのかを考えながら家づくりを進めていきました。
四季折々の風情を感じながら慎ましく暮らす
先述したとおり、「自分たちの身の丈にあった、必要最低限の簡素な家で、四季折々の風情を日々感じながら慎ましく暮らしたい、完成した時に完全な状態でそこから劣化していくのではなく、時が経過して味わい深く馴染んでいき、家族の成長と一緒に家も育っていく」、この思いはずっと変わりません。
それとともに、暮らしの中に寄り添う道具たちも、ケミカルな素材や劣化の早いモノ、装飾や見た目重視のモノではなく、経年変化で味わいの増す自然素材や、用途の限られた必然の要素が施された道具など、愛着を持ってながく使い続けられるモノを選ぶようになりました。
改修以前は音楽や服が好きで大量のCDや服が溢れかえり、雑貨も含め、とくにかくモノが所狭しと並んでいました。リノベーションの工事期間中は近所の仮住まいへと一時的に引っ越したわけですが、その際に家にあったモノのあまりの多さに愕然とし、かなりの量を処分しました。
歳を重ねるにつれて物質的な豊かさよりも心の豊かさを求めるようになってきましたが、少しずつモノは増え続け、いずれは溢れてくるのだなと再確認したのを覚えています。
この経験も踏まえ、建築家さんの計画の元、所有するモノの定位置、居場所を明確にしました。
余白ある空間づくり
モノを選ぶ価値観が変わる中で、手仕事の温もりを感じられる道具や家具は特に愛着が湧くので好んでいます。また、それひとつで様々な用途へ役割を果たしてくれるモノをなるべく選ぶようようにして、持ち物を限定するようにしています。
空間にはゆとりが必要です。入るからといって隙間なく収めていくと、見た目も心も窮屈に感じます。
例えば、我が家にはソファがありません。当初あれこれと揃えたい気持ちが先走る中、ダイニングテーブルを製作してくださった作家さんの「一度に全てを揃えようとせず、暮らしながら本当に必要だと感じたモノを少しずつ足していった方が良い」といった言葉にも感化され、未完成の、余白がある状況を楽しんでいます。
この余白を含めた空間づくりは、インテリアを交えながら後編でご紹介したいと思います。
ひと工夫で息を吹き返した玄関
改築前はいわゆる昔ながらの日本家屋といった佇まい。加えて減築・増築できない条件下でのリノベーションでした。
玄関は北側にあり、以前は空気の通りも悪く、梅雨時には収納内にカビが発生するほど、暗く決して居心地の良い場所とは言えませんでした。構造上もこの方角には開口はつくれない中、建築士さんへある提案をしました。
それは、幼少期にこの家で過ごした義父の「広間と北側のお風呂場(当時は窓がついていた)の窓を開けると、風が通り抜けて気持ちがよかった」という言葉をもとに、北側に風が抜けるような工夫ができないか?といった相談でした。
そこで玄関の内側に折り畳みの障子網戸を設置してくださりました。素材は和紙ですが、網状になっているので、網戸のように使えます。おかげで心地よい風が広間に抜けていくようになり、無垢の木枠もこの家に馴染みとても気に入っています。
玄関の扉は杉板を繋ぎ合わせた引き戸。横にスリットガラスを設けて明かりとりに。表札はchikuniさんの無垢の鉄プレートに文字が刻まれたモノです。
以前ギャラリーに伺った時に同じ表札を見て、我が家の表札は必ずこれにしようと心に誓いました。紆余曲折あり、新しい住まいになるまで随分と時間が過ぎましたが、当時の表札への決心は揺らぐことなく無事に我が家へ迎えられました。
名無しの我が家にやってきて1年半が過ぎ、錆もでてきてだいぶ雰囲気も増してきています。
外壁は杉の縁甲板を友人の手伝いも借りて自主施工で塗装しました。貼り付ける前の状態を丸一日かかって一枚一枚塗り上げたのは、苦労もありましたがいい思い出になり愛着も湧きました。自然素材にしたおかげで、旧家の部分と年を重ねるたびに調和していくと思います。
この”調和”は一つのテーマでもあります。家全体に陽が差し込み明るい家ではなく、明と暗が調和した家。風の通りはよくて、窓の位置や大きさも丁度よくて、そして季節によって光の入り方が違う。
そんな我が家の様子を後編でもお話したいと思います。
(つづく)
元来お持ちだった旧家やご親族への感謝の想い。それに加え、モノを所有することへの思考の変化が建築家さんとの出会いを引き寄せたように感じます。価値観が合うってのはとても大切ですし、お互い信頼している様子も伝わってきました。
また機能的ですべて新しいモノに囲まれるのではなく、古き良きものを引き継ぎつつ、足りないものを補い、理想とする暮らしに近づけていく。持続可能な暮らしを実現する、リノベーションの本来の形だなと思います。
身の丈にあった、必要最低限の簡素で四季の風情を感じる暮らし。komorebiさんの意思が現れていましたね。
後編は内装や家具、インテリア、モノへの価値観について触れていきたいと思います。後編もお楽しみに。
(編集:編集長)
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